毎年、8月が終わりに近づくと
Iさんを思い出す。
この人がいなかったら、わたし
どうなっていたのだろう。
わたしたち母娘に
積極的に関わってくれた人。
具体的な行動で
わたしを助けてくれた恩人。
母にとっても
同居してから初めてできた友達で
心を許せる特別な存在だった。
10年前の夏、わたしは
認知症の症状が出始めた母の
終の棲家を探すため奔走していた。
この話を母にしようと思うと
話す前からしんどくなった。
見捨てられ不安の強い母の反応が
手に取るように想像がついたから。
そもそも
母は昔っから対話が成立しない人。
同居後は、気に入らないことがあれば
すぐ「田舎に帰る」と言う母。
わたし1人では
母を連れ出すのは困難だった。
サービス付き高齢者住宅の見学を嫌がる母を
「私も見たいもん」
と、Iさんが上手に誘ってくれた。
3人でサ高住の見学に行けば、案の定
施設責任者の方を前にして、語気を荒げた。
気に入らないところを並べ立てて、毒づき
「ここは施設や!施設には絶対入らへんっ」
頑な母に、苛立つ娘。
見学の帰り、車の中で口喧嘩を始める母娘に
いたたまれなくなったIさん。
「なんでこんなことになるの、2人ともやめて!」
「ちょっと、車停めて」
と言って、わたしと母を置いて行った。
戻ってきたIさんが
「まあまあ、2人ともこれでも食べな」
と差し出したのが、〇村屋の小豆バー。
スーパーの駐車場に停めた車の中で
小豆バーを3人で食べる。
Iさんの優しさが心にしみて。。。
小豆バーを見るとIさんを想い
Iさんを想うと小豆バーが浮かぶ。
86歳のIさんはその夏の終わりに逝った。
わたしの人生で一番泣いた日だった。
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