着物にべったり貼りついた嫌な感情

買い取り業者に着物にまつわる思い出を聞いてもらった

その着物というのは、利休色の附下げ訪問着で
着付け教室に通っていた独身時代に買ったもの。

着付けにハマったわたしは、たまたま立ち寄った
呉服屋で着物を買うようになった。

その呉服屋からお客様サービスと案内を受けた
1泊2日の招待旅行に、母を誘って参加した。

旅程の観光の合間に展示会場に入ってから
招待旅行が着物を売る目的の企画だと気づいた。

お誘いの常套句をきれいごとで受け取っていた
自分のアホさと、呉服屋のカモになっている
ことを、遅まきながら自覚してへこんだ。

わたしの着物のワードローブを把握している
営業員が、地味目の訪問着を勧めてくるが
買う気なんてない。

わたしは、営業員の言うことに生返事をして
のらりくらり時間稼ぎしてやり過ごそうとした。

営業員が着物と帯のコーディネートを始めると
商品を中心にして、営業員たちの車座ができた。

母とわたしもその輪にいて、わたしは
「着物は好みじゃないから帯だけで」と言うが
セット購入一択ありきの空気感。

とうに夕食の時間は過ぎて、しびれを切らした
営業員たちが心の中で揉み手しているのが見えた。

粘る営業員たちの思惑を打ち破るだけの強い意思を
わたしが示さないまま、沈黙の時間ができた。

その沈黙を破って、母が言った。
「ワタシが、着物のお金出してあげるわ」。

輪になっていた営業員たちの顔が一斉にほころび
やんややんやと手を打って、母を褒めそやした。

母は身を捩り体を揺らして得意満面になっている。
気前よく大枚をはたき、いいお客様扱いをされて
上機嫌になっている母の様子を見て、唖然とした。

母への嫌悪感と自分への嫌悪感がないまぜになった。

「余計なこと言って!」と母を非難したい気持ち。
でも今、母の顔を潰すことはできないと思う気持ち。

「着物は要らない」とはっきり断り切れなかった
自分が招いた結果だと思うと、不甲斐ない気持ち。
気に入ってないモノを買ってしまう残念な気持ち。

その時に自分が感じた気持ちを消化できないまま
時は流れていった。この着物のことを思い出すたび
まぶたに浮かんできたのは、上機嫌な母の姿。

母の姿が反復されて、時の流れに薄まるどころか
濃くなった嫌悪感が着物にべったりと貼りついて
二度と着たくない着物になった。

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