40代で反抗期を迎えてキレたわたしの
怒りは、ちゃんと座敷婆に届いていた。
ゴミ箱から拾い上げた母のメモには
「いやなことをいってすみません」と
書かれていて、わたしは胸を詰まらせた。
メモは、座敷婆から渡されてもいないから
わたしは謝ってもらったわけじゃないけど
そこに、わたしが求めていたものがあった。
わたしの胸が詰まったのは
メモに、座敷婆の心の葛藤を感じたからだ。
怒っている娘にどんな態度を取るべきか
座敷婆なりに深く考えたのだと思う。
たぶん、これまでの人生にないくらいに。
年賀状にも字を書かない座敷婆が
娘の怒りに向き合おうとして言葉を紡いだ。
娘に伝えたいことを書いては書き損じて
ペンでぐるぐる黒く塗り潰して書き直した跡。
書いた言葉と気持ちを照らし合わせて
自分に向き合い、座敷婆が言葉を選んだ跡。
しわくちゃにして捨てられた紙そのものにも
座敷婆の葛藤の痕跡を感じていた。
そして、その葛藤の中、座敷婆は謝ろうと
「私が悪かった」「すみません」と書いた。
そう思ったのは、ほんの一瞬だったとしても
その心の動きは文字に残された。
わたしは、座敷婆の気持ちを感じていた。
ずっと、こんな気持ちのやりとりをしたかった。
互いの気持ちを通い合わせる言葉が欲しかった。
初めて、わたしと座敷婆の心が繋がったと思えた。
心を繋いてくれた紙切れを大切に握りしめた。
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